キャリア面談で部下の自律的な成長を促す:アサーティブネスと共感を両立させる対話術
キャリア面談は、部下の成長を支援し、組織の持続的な発展を促す上で極めて重要な機会です。しかし、部下の主体性を尊重しつつ、具体的な方向性を示し、時には厳しい現実を伝えるというバランスの取れた対話は容易ではありません。この記事では、キャリア面談においてアサーティブネスと共感を効果的に組み合わせる方法を、具体的な事例を交えながら探求します。
キャリア面談におけるアサーティブネスと共感の重要性
キャリア面談の目的は、部下自身が自身のキャリアを主体的に考え、行動できるよう支援することです。このプロセスでは、以下の二つの要素が不可欠です。
- アサーティブネス: 部下への期待、客観的な事実、組織の方針、そして上司自身の考えを明確に伝える力です。これにより、部下は現状と課題を正確に把握し、具体的な行動計画を立てるための土台を得られます。
- 共感: 部下の感情、価値観、不安、願望などを深く理解しようと努める姿勢です。これにより、部下は安心して本音を語ることができ、信頼関係が構築され、自律的な思考が促されます。
これら二つの要素が欠けていると、面談は一方的な指示になったり、あるいは漠然とした雑談に終わったりする可能性があります。適切なバランスが、部下の内発的な動機を引き出し、具体的な行動へと結びつける鍵となります。
アサーティブネスの実践:期待と事実を明確に伝える
キャリア面談におけるアサーティブネスは、単に「主張する」ことではありません。それは、部下の成長と組織の目標達成のために、必要な情報を建設的かつ明確に伝えることです。
事例1:目標設定に対するアサーティブな問いかけ
ある部下Aさんは、将来的に新しいプロジェクトのリーダーになりたいという漠然とした希望を表明しました。上司は、その意欲を尊重しつつ、具体的な行動を促す必要があります。
(上司)「新しいプロジェクトのリーダーを目指したいという意欲、素晴らしいですね。具体的に、どのようなスキルや経験が、その役割には必要だとお考えでしょうか。また、現状のスキルセットで、そのギャップをどのように埋めていきたいですか」
この問いかけは、部下の意欲を認めつつも、現状のスキルや経験を客観的に見つめ、不足している部分を具体的に把握することを促しています。単に「頑張ってください」で終わらせず、具体的な思考を促すアサーティブな姿勢です。
共感の実践:部下の感情と背景を理解する
共感は、部下が安心して自己開示できる環境を作り、その内面にある本当の思いを引き出すために重要です。部下の言葉だけでなく、声のトーンや表情、しぐさといった非言語情報にも注意を払い、その背景にある感情を理解しようと努めます。
事例2:キャリアパスへの不安に対する共感的な傾聴
別の部下Bさんは、今後のキャリアパスについて漠然とした不安を抱えているようです。現在の業務にマンネリを感じているものの、具体的に何をしたいのかが見えていない状況です。
(部下Bさん)「正直なところ、今の業務を続けていくことに少し閉塞感を感じていまして、このままで良いのか不安があります」 (上司)「そうですか、閉塞感を感じていらっしゃるのですね。今の業務に何か物足りなさを感じているのでしょうか。その不安の背景にある思いを、もう少し詳しく聞かせてもらえますか」
この上司の対応は、部下の「閉塞感」という感情を受け止め、その言葉を反復することで共感を示しています。さらに「物足りなさ」「不安の背景にある思い」と問いかけることで、部下が自身の感情を深掘りし、その原因を言語化することを促しています。
アサーティブネスと共感をバランスさせる対話フレームワーク
キャリア面談では、これらの要素を段階的に、かつ柔軟に組み合わせることが重要です。ここでは、バランスの取れた対話のための簡単なフレームワークを提案します。
- 傾聴と共感による現状理解: まずは部下の話を徹底的に聞き、感情や状況を理解しようと努めます。部下が抱える漠然とした思いや不安を言語化し、共感的に受け止めます。
- 例:「今の状況について、どのような思いをお持ちでしょうか。お話しいただける範囲で、聞かせてもらえますか」
- アサーティブな問いかけによる目標・課題の明確化: 部下の感情を受け止めた上で、具体的なキャリア目標や現状の課題を明確にするためのアサーティブな質問を投げかけます。客観的な事実や期待を伝え、認識のずれがないかを確認します。
- 例:「その思いを踏まえ、今後どのような状態を目指したいとお考えですか。また、今の業務内容で、その目標に近づくために具体的に取り組めることは何があるでしょうか」
- 具体的な行動計画の共創: 目標と課題が明確になったら、部下自身が主体的に取り組める行動計画を共に考えます。上司は、組織のリソースや自身の経験に基づいた示唆を与えつつ、最終的な意思決定は部下自身に委ねる姿勢が重要です。
- 例:「では、その目標達成に向けて、今後3ヶ月でどのような行動から始めてみますか。もし何か私にサポートできることがあれば、遠慮なく教えてください」
事例3:新しい役割への挑戦におけるバランスの取れた対話
部下Cさんは、現行業務で十分な成果を出しているものの、より高度な業務への挑戦に二の足を踏んでいます。新しい役割への期待はあるものの、失敗への不安が大きいようです。
(上司)「Cさん、いつも安定して素晴らしい成果を出してくれて感謝しています。先日話していた新しい役割への挑戦ですが、何か不安に感じていることはありますか」 (部下Cさん)「ありがとうございます。新しい役割は魅力的ですが、自分に務まるか、周りに迷惑をかけないか、正直少し不安で踏み出せずにいます」 (上司)「そうでしたか、新しい挑戦には不安が伴うものですよね。そのお気持ち、よく分かります。一方で、Cさんのこれまでの業務での粘り強さや学習意欲を見ていると、私は新しい役割でも必ず成果を出せると信じています。この役割はCさんの成長にとって大きな機会になるはずです。具体的に、どのようなサポートがあれば、その不安を軽減し、一歩踏み出せそうでしょうか」 (部下Cさん)「そう言っていただけると、少し安心しました。まずは新しい業務の全体像をもう少し詳しく知りたいのと、もし躓いた時に相談できる人がいれば心強いです」 (上司)「承知しました。新しい業務の概要については、私が詳細を説明しますし、関連部署のキーパーソンとの面談機会も設定しましょう。万が一、困ったことがあれば、いつでも私やチームのベテランメンバーに相談してください。Cさんが安心して挑戦できるよう、私も全力でサポートします」
この対話では、上司はまず部下の不安に共感し(「不安が伴うものですよね。そのお気持ち、よく分かります」)、その上で部下の潜在能力と信頼をアサーティブに伝え(「必ず成果を出せる」「大きな機会になるはず」)、具体的な支援策を提示しています。これにより、部下は不安を解消し、前向きに挑戦する意欲を得ることができました。
まとめ
キャリア面談は、上司と部下が共に未来を創造する場です。アサーティブネスで方向性を示し、共感で信頼を深めることで、部下は自身のキャリアを主体的に形成する力を養うことができます。これは一度で完璧になるものではなく、日々の実践の中で磨かれていくスキルです。本記事でご紹介したアプローチが、皆さんのキャリア面談における対話力向上の一助となれば幸いです。